技術の伝え方やコミュニケーションの在り方を見直す——勤続15年目の社員が新入社員に向けて開催した研修の狙い

第一カッター株式会社(以下、DIC)は、社員にむけたさまざまな研修を行っています。昨年(2022年)行われたのが、入社15年目の社員を対象とした「15年目研修」。

この研修のユニークなところは、15年目の社員が「新入社員研修の企画運営」を行うところです。自らが指導側に立つことで、コミュニケーションの手法を学んだり、会社の状況を客観的に見る機会を作っています。

実際にどのような新人研修が行われたのでしょうか。昨年、指導員として研修を担当した先輩社員の長田さんから、研修の詳細と指導側に立ってみたからこその学び、より良い会社を目指すために取り組んでいきたいことを聞きました。

「教える側も学ぶ」が特徴の15年目研修

——まずは「15年目研修」の概要を教えてください。

「15年目研修」は、入社15年目の社員が各部署の中心人物として成長していくために、「部署内のコミュニケーションを良好にする手段を学ぶ」ことを目的に行われた研修です。新入社員研修に実習指導員として参加することを通じて、より良い教え方や悩みの引き出し方といったコミュニケーション手法を学んでいきます。

研修は大きく2つの工程にわかれていて、1つ目は「コミュニケーション研修」でした。傾聴や対話、コーチングスキルなど、人と向き合うための技術について指導員側が学びます。

——最初に長田さんたちがコミュニケーション手法を学んだ。

続く2つ目は、新入社員に対する研修の企画運営です。入社まもないメンバーの悩みや課題を解決するために、工事の内容や機械の扱い方を教える講義や、実際に機械を動かしてみる「模擬」を開催しました。

研修は4〜5日間のものを、4月、8月、11月、翌年3月と4回にわけ、1年を通じて実施。15年目の社員が2人1組となって、自部署に配属される7〜8名の新入社員を担当しました。

——長期にわたる研修だったんですね。なぜ、このような体制で研修を行うのでしょうか?

新入社員の技術や工事への知識を深めるとともに、先輩社員である我々の教え方やコミュニケーションの在り方を考える機会にするためです。

昔はDICにも、こういう業界らしく「背中を見て技術を盗め」という職人文化がありました。しかし、若い人の就労意識の変化や、業界全体の人手不足を考えるならば、教え方を変えていかないといけないのも事実。背中を見せることも重要ですが、コミュニケーションを通じて、なるべく早くわかりやすく技術を伝承していくために、「教える側も学べる研修」になっているんです。

工事への理解を深め、現場のコミュニケーションを円滑に

——では、実際に行った新入社員研修の内容を教えてください。何かテーマは設定されていたのでしょうか?

テーマは特にありませんでした。新人が現場で困ったことや、学びたいと思ったことを持ち寄ってもらい、講義か模擬のどちらかで応えていく形にしたんです。ただ、4月の初回だけは、新人がまだ現場に入っていなかったので、使用する道具の名前や作業の手順など、必ず必要になることをあらかじめ整理して教えました。

研修を受けた新入社員のみなさん

——寄せられた困りごとや課題で多かったものはありますか?

一番多かったのは「現場での段取りについていけない」ということでした。もちろん新人も、基礎的なことは学んでいるのですが、現場によって違う段取りや、変化していく状況についていくのが難しいようです。また、一緒に現場に入る先輩によって、最適と考える段取りが違うこともあり、指示通りに動けないことに悩む人が多くいました。

指示をする側の問題もあるかもしれませんが、やはり現場は時間がないのも事実で、どうしても丁寧に説明ができない場合もあります。理解せずにこなしてしまった作業は、結局身に付かず、技術を習得するのが遅れてしまうという課題が見えてきたんです。

——工期もあるなか、現場で丁寧に教えるのは難しいんですね。

そこで、新人研修では「指示の背景にある意図や狙い」について解説する時間を取りました。現場でもらった指示のなかで、理解できなかったものを挙げてもらい、そこにどんな意図や狙いがあるのかを我々から共有。工事自体の理解度を深められるようにしました。

工事の理解度が高まれば、目の前の作業をより効率的で正確に行うための方法を考えられたり、次の工程のことまで考えたりすることができます。すると、先輩の考えを理解することもできるし、自分なりの考えをもとに議論することもできる。

指示待ちになることなく、自分の考えを先輩に壁当てしながら学習することで、技術をスムーズに学ぶことができるはずだと考えました。

「職人気質」と「コミュニケーション」の両輪が必要

——指導員をやってみての手応えを教えてください。

日頃の忙しさのなかで、なかなか考える時間がとれないものを研修で扱えたのがよかったと思います。時間をかけて説明したり話したりするだけで、新人の抱える課題の多くは自然と解決していったようです。

ただ、もう少し改善できた部分もあります。特に、15年目の社員が最初に受けたコミュニケーション研修の内容を、もっとうまく使えていれば、より上手く伝えられたり、悩みを引き出せたりしたんじゃないかと思うんです。

——教える側をしたことが、長田さんにとっての学びにもなっているんですね。

そうですね。僕は研修を終えて日常業務に戻ってから、前よりもコミュニケーションの取り方を意識するようになりました。特に変わったのは、現場で後輩が意見を伝えてくれたときの対応です。

前はすぐに「こっちの方がいいよ」と判断してしまっていましたが、今は最後まで話を聞きながら、なぜそう思ったのかを引き出し、後輩の主体性を育めるように意識しています。新入社員研修の指導員をやったことが、自分の教え方、ひいては会社全体の技術の伝え方についても考えるきっかけになりました。

——先輩社員として長田さんご自身は今後どのように変化していくことが大事だと思いますか?

人手不足が懸念されるこの業界を盛り上げていくためにも、より幅広い層の人たちが働けるように受け皿を広くしていくことが必要だと思います。それには人に合わせた教え方をしたり、誰でも使いやすい機械を開発したり、入ってくる人たちに合わせていくことも重要だと考えています。

誰もが理解できる技術の伝え方やコミュニケーションと、プロとしての意識や技術を高めること。この両輪をしっかり回すことが、自分たち先輩社員に求められていることだと思います。

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