インフラクレンジングは「無くす」だけじゃなく「残す」仕事——水戸営業所の鈴木氏が、さまざまな技術に挑戦する姿を通じて若手社員に伝えたいこと

第一カッター興業株式会社(以下、DIC)には、カッター部門やダイヤモンド部門をはじめとする複数の部門があります。それぞれの部門によって用いる機械も工法も異なり、専門的な技術を持った職人が多く在籍しています。

そうした中、水戸営業所で働く鈴木さんは、どれかひとつだけではなく多種多様な工法を使いこなす職人です。高校卒業後、DICに入社し、20年のキャリアを積んだ後、現在は高速道路リニューアル工事の代理人(現場監督的な役割)も任されています。

今回は鈴木さんのキャリアや仕事への取り組み方を伺いながら、多くの技術を身につけてこれたわけ、職人として成長するためのポイント、先輩社員として後輩に伝えたいメッセージについて聞きました。

カッター工法とダイヤモンド工法の二刀流

——まず、鈴木さんのキャリアについて教えてください。

高校を卒業後、最初に配属されたのはカッター部門でした。2年ぐらい働いていましたが、「ワイヤーを用いてコンクリートから金属まで切断をするダイヤ部門のほうが向いているのでは」と思ってダイヤ部門へ異動。10年ほどダイヤ専門で働き、ある程度形になってきたタイミングでカッター部門に戻り、3年ほどカッターの技術を学びました。その後また、5年前くらいにダイヤ部門に戻り、現在はコアドリリングウォールソーイングワイヤーソーイングなどの工法を用いた解体の仕事をメインに担当しています。

——「ダイヤのほうが向いている」と思ったのはなぜですか?

カッター部門とは違って、治具の取り付けなどが必要なダイヤ部門は複数人で作業します。それが僕にはあっていたんです。職人が何人かいると、楽しくコミュニケーションを取りながら仕事ができたり、苦手な部分を補い合ったり、学びあったりすることができます。そうやってチームで働くことに魅力を感じました。

もう一度カッター部門に戻ったわけは、どちらの工法もできたほうが若手の指導にも役立つと思ったからです。そのおかげで、二刀流と言えるかはわかりませんが、両方の技術を習得することができました。

——若手社員の教育も意識されているんですね。こだわりはありますか?

指導する際のこだわりは「一緒に作業をしながら教える」です。仕事柄、言葉では説明しづらい部分もありますし、実際に手を動かしてみないと、上手くいくコツや難しいポイントがわからないですからね。「やらせてみて失敗した部分はサポートする」という意識が大事だと思っています。

僕が新人だった頃は職人文化が強くて、先輩社員の作業を「見て学べ」と言われていました(笑)。今思えば、貴重な学びの機会だったと思いますが、やっぱり社会人1〜2年目ではわからないことのほうが多い。最近、会社としても技術の言語化・データ化を推進しているように、時代に合わせて教え方を変えていく必要性を感じています。

事前準備が9割。失敗と改善の積み重ねが「直感」を養う

——教える側の工夫も必要ですが、教わる側にも意識すべきことがあるように思います。成長が早い人と遅い人の違いはなんだと思いますか?

一言で言えば「日々考えているか、考えていないか」の違い。言われた作業をこなすだけではなく、お客様の要望を汲みとり、効率的かつ安全な作業方法を考え続けている人は成長が早いと思います。

当日の現場だけではなく、事前の準備が大切です。僕らの仕事では、形が変だったり機械の取り付けが難しかったりする構造物を切断する際、それに合わせた治具を組み立てます。事前に現場の写真を見て、どのような治具があれば良いか、どのような手順なら工事がスムーズにできるかを想像して作業に臨むんです。

もちろん現場に行ってみないとわからないこともありますが、事前にイメージを持っていれば、柔軟に対応することができます。「作業の9割が事前準備」と言っても過言ではありません。当たり前に聞こえるかもしれませんが、その当たり前をどのくらいきちんとやるかで違いが生まれると思います。

——現場をイメージして「準備」することが成長を加速させる、と。

そうですね。準備の大切さは、今の自分の仕事でも感じているところです。

僕は今、高速道路リニューアルプロジェクトにて、DIC側の作業を管理する「代理人」をしています。代理人の役割は、作業が円滑に回るような環境づくり。なるべく効率的かつ安全に職人さんが作業でき、イレギュラーが起きないような環境整備をしています。ですから、どのような場所にリスクがあるのかを事前に把握し、本施工に入る前に対処しないといけません。

——イレギュラーが起きそうなところを見抜く必要がある。

おっしゃる通りです。そこで大切なのが、ある種の「直感」みたいなもの。過去の失敗も含めたさまざまな体験があるから、どこにリスクがあるかを見抜くことができると思います。

僕らの仕事は現場現場で環境がまったく異なってくるので、思うように行かないことがたくさんあるんです。最終的に成功した工事でも、その途中では上手くいかないことも起きるし、その都度メンバーや先輩と話し合いながら改善しています。徹底的な事前準備をした上で失敗と改善を繰り返すことによって、仕事に必要な「直感」が養われ、初めての現場にも対応できるようになるんです。

自分のチャレンジする姿を見せることが、一番の若手教育

——鈴木さんは本当にさまざまな現場を経験されたんですね。その中で、一番難しさを感じた工事はなんでしょうか。

2年前くらいに行った、川に掛かる橋の基礎を切断する工事です。川に水流はなかったのですが、川底には泥が溜まっていて、5cm先も見えないような環境での作業でした。事前にイメージしていた治具を水中で組み立てたり、細さ1cmのワイヤーを構造物に巻きつけたりなど、手探りの作業がすごく難しかったんです。

水中の工事は他にもあり、某テーマパークの中心にある池でも作業しました。DIC自体では水中の仕事は少ないですが、僕は潜水士の免許を持っているのでたまに担当しているんです。

——カッターとダイヤモンドだけじゃなく、潜水士の免許も持っていて水中工事まで対応できるんですね。すごく幅広く色々なことに挑戦されているのはなぜでしょうか。

DICには扱っている工法がたくさんありますし、望めば資格も取らせてくれるので、どうせなら自分がやってみたいと思うことをすべて経験しようと思ったからです。そうすれば、水戸営業所で受けられる仕事も増えますし、後輩に指導する時も詳しく説明できますから。

マンションやオフィスビルなどの給排水設備の洗浄や点検を行う「ビルメンテナンス事業」や、床や壁の面を目的・用途に応じて清掃したり研磨したりする「下地処理事業」など、まだ関わったことのない工法がたくさんあります。DICには色々な可能性があるので、自分から新しい挑戦を求めていくようにすると、20年近く働いても刺激的な日々を送ることができるんですよ。

——挑戦をする裏側には、水戸営業所や後輩のみなさんに向けたメッセージがあるんですね。

そうですね。営業所でできない仕事は、専門業者の方に来ていただくことになります。でも、自分に技術があれば、機械だけ借りて作業できるじゃないですか。そのほうが全体最適になるかなと思うんです。

また、先程の育成の話にも繋がりますが、自分がさまざまなことにチャレンジして楽しそうに働いていることが、若手社員にとって一番の教育になるとも思っています。僕の姿を見て、いろんな作業に興味を持ってくれたり、その中から自分に向いているものを見つけたりしてくれたら嬉しいですね。

——最後に、鈴木さんがこの仕事にかける想いを聞かせてください。

DICは、老朽化した社会インフラを維持メンテナンスする「インフラクレンジング」をしています。一見すると、構造物の解体や除去が中心の「無くす仕事」ですが、僕は「残す仕事」だとも思っているんです。

自分が工事で関わった建物に子供たちを連れていくと、作業跡を指差しながら「あれ、パパが切ったところだね」って言ってくれます。その時に、「この建物がきちんと残り続けているのは、自分たちの仕事があったからだ」という誇りを感じるんですよ。

僕はDICで20年以上も働いていて、もう立派な中堅社員です。これからは、技術だけではなく、そうした仕事の価値ややりがいなども伝えていく側になっていきたいと思います。

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