コンクリートを鏡のように輝かせる魔法の工法——DIC下地処理工事課の技術力とやりがいに迫る

第一カッター興業株式会社(以下、DIC)には、下地処理工事課という組織があります(2023年4月末時点。2023年7月より茅ケ崎営業所に統合)
下地処理とは、床面や壁面を専門の機械で削り、コンクリートの面を綺麗に整える工法のこと。コンクリートの塗装ムラの防止や、酸化物や汚れの除去、光が反射するまで磨き上げる「鏡面仕上げ」など、DICの中では数少ない「仕上げ」の部分を担当しています。

そんな下地処理の現場で職長として働くのが平牧さんです。平牧さんはDIC入社後、ダイアモンドカッターを扱う部門で数ヶ月、営業で1年、建物の給排水設備の高圧洗浄・保守点検・補修業務を行うビルメンテナンス事業部で10年間の経験を積み、4年前から下地処理工事課で働いています。また、現場で働くかたわら、作業風景の動画をYouTubeにアップするなど、積極的なPR活動も行っています。下地処理の魅力をよく知る平牧さんから、作業の手法や仕事のやりがいを聞きました。

強度と光沢を生み出し、トータルコスト削減も可能な「プラコンフロア」

——まずは平牧さんの現在のお仕事について教えてください。

下地処理工事課の仕事は大きく分けて3つあります。1つはごく小さな鉄や砂を投射することで、コンクリート面や鋼製面の表層の除去や、塗料の付着力向上のために表面を整える「ブラスト」。ショットブラスト/バキュームブラストと呼ばれる機械を用いて行います。2つ目はコンクリートの​​レベルダウン(段差修正)や、接着剤・床材除去を行う「研削・切削・剥離」の作業。そして、塗床等の撤去から研削、研磨まで一括して行なう「プラコンフロア」です。プラコンフロアはコンクリート床を鏡面の状態になるまで磨き上げ、照明が反射するほどの光沢とすぐれた強度を生み出します。

——平牧さんがYouTubeで動画にされていたのは「プラコンフロア」ですね。コンクリートがここまで綺麗に輝くのはなぜでしょうか?

凹凸がなくなるまでコンクリート表面を磨くと光るんです。街中にあるコンクリートが、綺麗に見えたとしても鏡のようには光っていないのは、目に見えない小さな穴やひび割れがあるから。プラコンフロアでは、それらを表面強化剤で埋めながら研磨していきます。研磨する刃の荒さには「◯◯番」という数字がついていて、紙やすりと同じように、徐々に刃を細かく(数字を大きく)していくことで、最終的に鏡のような仕上がりになるんです。

もちろん、仕上がりはお客さまの用途に合わせます。工場の床など、鏡ほど輝かなくてもいいところは「100番」くらい、鏡みたいな床になるのは「400番」くらいからです。400番以上の刃を使うのは、車のディーラーさんの整備場などが多いですね。お客さまに車を見せる際の見栄えをよくしたい、かつ車が走ってもコンクリートがいたまないようにしたい、ということで選んでいただくんです。他にも大型商業施設の床などでも採用されています。

——鏡のように輝くだけではなく、耐久性も高まるんですね。

そうですね。コンクリートが壊れてしまうのは、目に見えない小さなひび割れが原因です。ひび割れの上を物が移動した時に、小さく引っかかり、徐々に割れ目が大きくなってしまう。しかし、プラコンフロアでは、表面強化剤でひび割れを埋めるので、引っ掛かりがなく、ダメージを受けにくい床ができあがります。

条件にもよりますが、プラコンフロアで磨いた床は、一般的なコンクリート床と比較して、「2倍ほど長持ちする」と考えられています。管理や修繕まで含めた「トータルコスト」で考えると、お客さまにとってお得な工法でもあるんです。

仕上げに関わるからこそ求められる「美的センス」

——耐久性を高め、見栄えをよくするプラコンフロアですが、実際にどのような作業をしているのですか?

まずは現場の下見をして、床の状態を確認します。素材や劣化具合、床板材があるかないかなどによって、使用する刃が変わってくるんです。その後、現場に出向き、まずは一角を試しに磨いてみます。計画通りに磨けるかの確認もしていますが、仕上がりをお客さんに見てもらうためでもあります。問題がなければ、小さな番号の粗い刃から順番に磨いていきます。

現場によっても異なりますが、ディーラーさんの車庫くらいになると、4〜5名で現場に入り、機械3〜4台を動かします。例えば、1台目が「30番」、2台目が「50番」といったように、刃の粗さを変えて、2台目が1台目を追いかけるように磨いていくんです。端から端まで磨いたら、より高い番手の刃に変えて、もう一度同じところを磨きます。これを繰り返し、大体5日間くらい作業をすると鏡面に仕上がります。

——無垢なコンクリートが鏡のように光る瞬間、達成感がすごそうですね。プラコンフロアの作業では、どんな技術や能力が求められるんでしょうか。

お客さまと仕上げのグレードをすり合わせるコミュニケーションや、機械操作の技術も大事ですが、一番大切なのは「美的センス」だと思っています。「この刃で磨いたらコンクリートはこの顔になる」「200番ならこの顔になる」といった感覚を養うことが重要です。その感覚がなければ、お客さまの仕上がりにあう刃を選定することも、工期内に磨き切ることも難しいと思います。DICの中では数少ない「仕上がり」を担当する組織だからこそ、クリエイティブな要素が求められるんです。

——なかなか身につけるのが難しそうな力ですね……。

もちろん、最初からその感覚がある人はいませんし、僕自身も経験を積む中で徐々に身についてきました。勉強するだけで身に付くような力では無いので、下地処理工事課では、メンバー同士での情報共有を大事にしています。それぞれの現場で得た経験を、組織内の共有知にすることで、みんなで技術力を高めていこうとしているんです。

プラコンの魅力を発信しようとはじめたYouTube

——連携によって工事全体のクオリティを高めている、と。そうしたなか、平牧さんはプラコンフロアの作業動画をYouTubeにアップしていますね。なぜ、発信を始められたんですか?

プラコンフロアのことをもっと知ってほしいという気持ちがあったんです。DICはカッターの仕事のイメージが強いので、社内外問わず、プラコンフロアはあまり認知されていませんでした。そう考えていた時に、ちょうど昨年の「リブランディング・プロジェクト」が始まりました。会社のイメージを変えていくのに合わせて、プラコンフロアで美しく磨いた床のビジュアルを出していけば、魅力が伝わるのでは、とはじめたんです。

とはいえ、お客さまの現場の動画はあまり外に出せないので、まずは社内の実験場で作業したものを動画にしました。今までもかっちりしたプロモーションビデオはありましたが、これくらいラフなものははじめてです。趣味で「プラモデルを作ってみた」というYouTube動画をよく見ていたので、それを真似して作りました(照笑)。今後は、もっとカジュアルで、若い人でも見てくれるような動画を作っていきたいと思っています。

——実際に発信してみて変化はありましたか?

まだ動画を出して1ヶ月くらいなので、それほど大きな変化はないですが、社内から「みたよ!」という声をいただきました。また、一番嬉しかったのは、高校生の娘からの反応です。動画を作る際に、色々とアドバイスをもらっていたんですが、「初めてお父さんの仕事のことがわかった」と言ってくれました。床を磨く仕事をしていることは知っていたようですが、イメージはついていなかったようです。動画作りを通じて、実際の作業を伝えることができてよかったです。

若者や新しい発想を大切にするDICのカルチャー

——部署・課がみずから作業動画を発信するというのは、DICの中でも新しい取り組みだと思います。こうした新しい取り組みをする際、社内からはどのような反応があるんでしょうか?

まず下地処理工事課のメンバーがすごくポジティブに捉えてくれました。平均年齢が32〜33歳と、割と若いメンバーが多く、日頃から和気藹々とした雰囲気があるので、新しい挑戦がしやすい環境です。SNSに強い世代も多く、こうした取り組みに対しても前向きに議論することができています。

それに、DIC全体としても若者や新しい発想を大切にするカルチャーがあります。先日行った「管理本部の引っ越しPJ」など、あえて上のメンバーが口を出さず、若いメンバーを中心に進めるプロジェクトも多々ある。いい意味で任せてもらえる会社だと思います。

——若い芽を伸ばそうとするカルチャーも、平牧さんの挑戦を後押ししているんですね。では、最後に今後の目標を教えてください。

YouTubeやInstagramなどのプラットフォームを駆使して、下地処理の魅力をさらに発信していきたいと思います。それに加えて、後輩育成にも積極的に取り組んでいきたい。魅力を発信するとともに、技術についてもきちんと伝え、若い人たちが、この仕事によりやりがいを感じられるようになったら嬉しいです。

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