「水中の『危険』を『徹底した安全と教育』へ――   第一カッター興業・水中工事課が挑む、インフラ保全の新たな未来」

切断・穿孔技術のリーディングカンパニーである第一カッター興業(以下DIC)は、日本全国の水中工事のニーズに応えるべく、2025年7月に「水中工事課」を立ち上げました。厳しい水深下での安全管理を徹底し、社員の命を守る体系的な教育を構築することで、社会インフラの未来を支える同課の挑戦に迫ります。

プロフィール

Sさん(水中工事課 課長):
協力会社での水中施工経験を経てDICに入社。水中工事課の立ち上げを牽引し、自社での安全管理の構築や3D CADの活用を推進。現在は同課の課長を務める。

Kさん(水中工事課 係長):
2010年に入社。コアドリル:(以下CD)やワイヤーソーの施工班として豊富な経験を積む中で、約10年前に潜水士資格を取得。4~5年前から水中工事の自社施工化を提案するなど事業化に情熱を注ぐ。現在は同課の係長を務める。

需要に応えるために。水中工事の自社施工化への挑戦

ーーはじめに、水中工事課の設立についての経緯を教えてください。

Kさん: 日本は海に囲まれた島国ですし、河川や港湾などのインフラも設置から60年近くが経過して老朽化が進んでいます。
これから間違いなく水中の維持補修の需要が増えていく中で、「水中工事の施工ニーズにしっかりと応えていかなくてはならない」と感じていたのがきっかけです。

Sさん: もともと、水中構造物の解体作業は沢山のニーズがありましたが、ほとんどを協力会社にお願いしていました。そんな中で、以前から「水中工事を自社でやりたい」と熱意を持っていたKさんの存在もあり、自社施工化に向けた動きが一気に加速しました。

ーーいつ頃から水中工事の自社施工化を考えていましたか?

Kさん: 実は、約5年前にも水中工事の自社施工化について提案したことがありました。当時はすぐに実現することはできませんでしたが、今回こうして取り組みが始まったことには、感慨深いものがあります。もしもっと早くから取り組めていたら、今より多くの潜水士が育ち、対応できる工事の幅も広がっていたかもしれません。

Sさん: 当時は「専門性が高すぎる」「事故のリスクがある」といった自社施工化のデメリットが目立ってしまい、社内に知識を持つ人が少なかったことも慎重になっていた理由です。
しかし、需要の高さやKさんの熱心な行動、そして元は協力会社にいた自分や他社員の知見を活かせる体制が整ったことで、社内でも「やろう!」という機運が高まっていきました。

Sさん: 設立にあたって私が一番強く思っていたのは、「チームの雰囲気づくり」についてです。
従来のこの業界は、いわゆる“オラオラ系”というか、威圧的な指導が多く、私はそれが本当に人を育てる上で正しい教育方法か疑問でした。
だからこそDICの水中工事課では、知識や技術を優しく、詳しく教えられる環境を作りたい思いがありました。お互いをリスペクトし、自制が効くようなあたたかいチームを目指してスタートしました。

水中工事を支える、安全への徹底した取り組み

ーーやはり一般的な工事と比較して気をつける事項は多いのでしょうか?

Kさん:水中は陸上とは異なる環境での作業となるため、常に安全を意識し、万が一のトラブルにも対応できる準備が欠かせません。
また、水中の現場は濁っていて視界がほとんどないケースが多いため、入念に図面を頭へ叩き込み、自分の置かれている位置や周囲の状況を手探りでも完璧に把握しておかなければなりません。

Sさん:特に『減圧管理』に関しては、陸上工事にはない極めて厳格なルールが存在します。
水深が深い場所に潜ると、強い水圧によって空気中の「窒素」が血液や体の中にどんどん溶け込んでいきます。
その状態で急に水面へ上がると、炭酸飲料のフタを一気に開けた時のように、体内で窒素がシュワッと泡立ってしまい、命に関わる重大な事故につながります。

これを防ぐために、浮上の途中で特定の水深にとどまり、ゆっくり呼吸をしながら体内の窒素を外へ逃がしてあげる作業のことを「減圧」と呼びます。
作業をした水深によって決められる水深まで上がり、決められた時間の減圧停止を行い、体内に溶け込んだ窒素を呼吸によって吐き出させていきます。これを管理せずに急浮上すると、体内で窒素が吹き出し(気泡化)、非常に高い確率で重大な障害や死に至ります。だからこそ、減圧のタイムスケジュール管理には陸上から徹底的に目を光らせています。

Sさん: ちなみに水深10mまでは「無減圧」として扱われますが「無減圧だから安全」というわけでもありません。潜行中にマスクが外れるリスクや、息を止めたまま浮上してしまうと、水圧の変化で体内の空気が大きく膨張して肺破裂を起こします。浮上時は必ず息を吐き続けながら上がらなければならないなど、安全管理がダイレクトに命へ直結しています。

ーー水中工事における「納期」や「工程管理」で、特に意識されていることは何ですか?

Kさん: 水中工事は天候によるイレギュラーが非常に多い現場です。そのため、お客様へ提出する工程表は十分な余裕を持たせた計画で作成しています。
納期に追われて、安全がおろそかになってしまう事態を未然に防ぐことが何よりも大切です。

Sさん: そもそも潜水作業は、潜水士ごとに1日の作業時間制限が法律や安全基準で厳しく決められています。ですので、シケや台風が近づいた場合は『即刻中止』にします。現場で粘ることは絶対にしません。自然のリスクは、人間の力では避けることができないからです。

Sさん: だから私たちは、最初から「実稼働日+気象等で動けない想定日」を組み込んだ工程表を作成しています。実は発注元である海洋土木の大手ゼネコン(マリコン)様側も、そうした海洋リスクや作業停止時の補償を含めた予算・工程枠を官公庁からいただいています。

つまり、水中工事において「納期に追われて作業している」という状態が発生している時点で、それは施工計画として既に失敗なんです。

ーーこれから予定している「プール研修」ではどのような訓練を行う予定ですか?

Kさん: 実は私自身、潜水士の資格を取ったばかりの頃、初めての現場で水中作業の難しさや怖さを実感した経験があります。その経験があったからこそ、「これから新しく水中工事に挑戦する後輩たちには、絶対にそんな怖い思いをさせたくない」という強い想いがありました。
プール研修は、学科試験を通っていきなり現場に投入されるのではなく、事前に基礎技術やトラブル対処を安全に学んでもらうためのプログラムです。

Sさん: 人が一番恐怖を感じるのは、「トラブルが起きた時の対処法が分からない時」なんですよね。
だから、やってはいけない行動を教えるだけでなく、あえて安全な2mプールの中でトラブル状態を体験してもらいます。例えば、水中で体が上下逆さま(頭が下、足が上)になってしまった時に、あせらずダンゴムシのように体を丸めてクルッと体勢を立て直す『クルリンパ』の復元技術なども練習します。
2mのプールならパニックになってもすぐ浮上できますし、命の危険がない環境で「こうなってもこう対処すれば大丈夫だ」という安心感を持ってもらうことが一番の目的です。

Kさん: 「いきなり現場でやってこい」という根性論ではなく、プールで基礎とトラブル対処をマスターし、そのあと実際の海で少し慣れてから現場へ移行する。

自分の命を自分でしっかり守れる知識と技術を身につけてから現場に臨んでもらうことで、心理的な不安をなくし、自信を持って安全に作業ができる環境を整えています。

水中に挑む、技術と工夫。切断・調査から環境対策まで

ーー水中工事課では具体的にどのような工事を行っているのでしょうか?

Kさん: 基本的には陸上と同じように、コアドリリングやワイヤーソーでの作業が中心ですが、水中足場の設置や、作業の障害となる土砂をポンプで吸引・除去する作業なども手掛けています。作業に入る前段階の現場整備から、施工後の撤去までトータルで対応しています。

Sさん: 施工以外の部分では、事前に現場の状況を確認する『潜水調査』という仕事もあります。
「工事を始めたいけれど、水中に何があるか分からないから見てきてほしい」という依頼ですね。
図面通りになっているか、予期せぬ障害物がないかを現地で確認し、その調査結果を基に元請け様が官公庁へ報告や金額の協議を行っていきます。

Sさん: 実際の施工段階に入ると、基本的に陸上の「CD班」が行っているワイヤーソーによる切断やアンカーの設置、コンクリートの破砕、水中での溶接・溶断など、陸上で行われているさまざまな施工に水中でも対応しています。切断・解体からアンカー設置、浚渫まで、水中で幅広い工事に対応できることが私たちの強みです。

──「水中足場」というのは、陸上の足場とは少し違うのでしょうか?

Kさん: 陸上の足場とは目的が大きく異なります。陸上の足場は高所からの転落防止などが主目的ですが、水中足場は作業者が水中で作業しやすくするための「簡単な足掛かり」です。ポイントごとにL字金具などを取り付けて、ダイバーが体を乗っけて作業位置を安定させるためのシンプルな仕組みになっています。

──水中工事での環境配慮や「汚泥・油の処理」については、どのような工夫や対策をされていますか?

Kさん:コンクリートを切断した際に出る微粒子(シルトやノロ)が海や河川へそのまま広がってしまうと、漁港関係者様への多大なご迷惑をかけてしまう恐れがあります。そのため現場では、『シルトプロテクター』と呼ばれる布状のカーテン(下部にチェーンの重り付き)で作業エリアを物理的に囲い、泥や微粒子の拡散をしっかり遮断しています。基本的にはこの囲いの中で作業を行えば、汚泥は時間と共に自然沈殿して落ち着くケースが多いですね。その後元請け様の指示に従った処理を行います。

Sさん: また、施工で使用する機械の「油漏れ」に関しては特に注意を払っています。万が一、海上に油が流出してしまうと海上保安庁や漁協様が出動する大事故になりかねません。そのため、緊急時に備えて現場には『油処理ボックス』という専用セット(油を速やかに分解・吸着する液体処理剤や吸着マットが一式入った箱)を常備し、即座に対処できる体制を整えています。

Sさん: さらにDICならではの大きな強みとして、油流出リスクそのものを完全に排除するエコア・コアドリリングという工法があります。これは通常の油圧ではなく「水圧」でモーターを回す画期的な技術で、現在では油圧式と遜色ないパワーを発揮する完成形に達しています。万が一水中ホースが破裂しても作動油が流出しないため、環境保全を強く求められる現場やお客様から非常に高い評価をいただいています。

水中工事から、会社の新しい可能性を切り拓く

ーー水中工事課の立ち上げから約1年が経ち、社内の雰囲気やご自身の中で変わったこと、変化の実感はありますか?

Kさん: 社内のみんなに「水中工事課」の存在が少しずつ認知されてきたなと感じます。私自身、水中で作業するダイバーに空気を送る「送気員」として必要な知識や技術を学ぶための『送気員特別教育』の講師を自社で担当するようになったのですが、人に教えることで自分の知識の再確認や深掘りができ、個人の成長をすごく実感しています。現場に出たい気持ちも山々ですが、今は教育や管理する立場としての役割の重要性も噛み締めています。

Sさん: 潜水士や送気員の資格を持つ社員が着実に増えて、組織としての『幹』が太くなった実感があります。自社での送気員教育を始めたことにも大きな意味を感じていますし、属人化を早くなくして、若い世代へどんどん技術を吸収してほしいと思っています。みんな水中工事を『難しそう』と感じがちですが、実は知ってしまえばシンプルなんですよね。陸上での作業をプロフェッショナルにこなすことが出来るのであれば、その技術を水中に持ち込むだけです。潜水技術に関して講習にてレクチャーするので、安心して和気あいあいと楽しくやっていきたいですね。

ーーこれから水中工事を通して、会社や社員の皆さんにどのような影響を与えていきたいですか?

Kさん: 潜水士が増えて対応できる現場が増えれば、水中工事は非常に需要がある分野なので、会社の業績に大きく貢献できるはずです。そして利益を出して会社に寄与していきたいですね。若い世代に『自己満足』だけで動いてもらうように頼るのではなく、リスクの高い作業に対してもし手当を付けることや、評価の基準を上げることができたら、さらに個々のモチベーションや次の世代の挑戦に繋がると思っています。

Sさん: 現状でもこなしきれないほど水中工事の依頼が殺到しています。海洋インフラの整備に貢献できる事を嬉しく思いますし、これを組織として対応できるようになれば、会社の売上・利益も跳ね上がり、社員のボーナスをアップさせることだって夢じゃないと思っています!

Sさん: また、社員にとって『社内での新しいキャリア・異動先の選択肢』が増えるのはすごく面白いことだと思うんです。今は技術工事部に入らないと水中工事に深く関われない段階ですが、今後は教育カリキュラムや、社内のスキル評価(達成段階レベルに応じて水中工事に挑戦できるルートなど)を整えていきたいですね。

Sさん: 水中の現場はトラブルが起きても誰もすぐには助けに行けません。だからこそ『自分で考えて現場を完結できる自立した人材』を育て、挑戦できる環境を作っていくことで、第一カッター興業の新しい可能性を切り拓いていきたいです。

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