ひらめきは趣味のバイクいじりから。第一カッター興業の「追従式プーリーユニット」誕生秘話
※2021年1月に PR TIMES STORYで公開された記事を転載しています。
この度、私たち第一カッター興業株式会社は「追従式プーリーユニット」を開発し特許を出願いたしました。
実は、大規模な切断作業の際に用いる「ワイヤーソーイング」の施工性・安全性・切断精度の向上に大きな影響を与えるこの仕組みの開発背景には、とある社員二人の好奇心と、現場への想いがあります。
「こうしたらできるんじゃないか」を形にすることで、現場の環境はもっとよくなるし、面白くなるはず。
業界の歴史を変えるかもしれないイノベーションの裏側について、企画担当の河野と開発担当の内田に語ってもらいました。
河野允告(こうの・まさつぐ) 第一カッター興業株式会社工事本部計画課長。普段は作業現場での切断方法をグリッド化した図面の作成など、効率化を図る業務を担当。
内田健(うちだ・けん) 第一カッター興業株式会社工事本部技術開発部整備開発課。普段は各事業所からの依頼を元に、現場で必要となる機械の製作を担当。
作業現場の「あったらいいな」を具現化した、ささやかな大発明
―さっそくですが「追従式プーリーユニット」は、作業現場にどのようなメリットをもたらすのでしょうか?
河野:コンクリートを切断し、撤去する工法のひとつに、「ワイヤーソーイング」というものがあります。これは、ダイヤモンドがついたワイヤー状の切断部をコンクリートに巻きつけて高速回転させることで、削りながら切断していくものです。そのため、作業時には大量の粉塵が発生し、それらを人の手で撤去しながら行う必要がありました。しかし、危険性が高いので撤去時には毎回機械を停止しなければないけない。そこで今回思いついたのが「追従式プーリーユニット」なのですが、この工法に携わる人なら誰でも一度は「こんなのあったらいいのに」と思ったことがあるがあるはずものだと思います。
内田:「追従式プーリーユニット」そのものの仕組みは非常にシンプルで、見た目は地味ですが、これをワイヤーソーイングの機械に加えることによって、作業効率・安全性・人員削減などに大きく貢献します。
―でも、そんなに誰もが望んでいたものが、なぜ今まで存在しなかったんでしょう?
内田:「追従式プーリーユニット」のような役割を果たすものは、電動では存在していました。でも、電動だとその分の電源やコントローラーが必要になり、工数も増えてしまう。そのため、現場ではマストの機械としては活用できていなかったんです。
河野:「追従式プーリーユニット」の仕組みを一般の人にもわかりやすく説明すると「鹿威し」みたいなからくりです。一定の力が加わり、持ちこたえられなくなったところで動く原理を利用しているので、電気も配線も必要ありません。
「追従式プーリーユニット」の仕組み
①~③の繰り返しで少しずつプーリーが動く
―「追従式プーリーユニット」は、携わる人々の長年の要望を形にしたものなんですね。
河野:ワイヤーソイングの工法が広まって30年程経っているのですが、自分が若手の頃から「どうにかならないかな」と思っていた課題が一つ解消されたとは思っています。グループ会社の人にもこれを見せたら「正直、悔しい」と言われたのですが、それくらいちょっとしたひらめきと工夫でできたものなんです。とはいえ、自分は思いついて内田に話しただけで、手を動かしたのは彼なんですけどね。
プレスリリースはこちらをご参照ください。
「こんなの出来ないかな?」といえば、きっと作り始めるだろうなって
―では、どんな風にして「追従式プーリーユニット」が生まれたのかを具体的に教えてください。
河野:バイクが趣味で、ブレーキを整備していたときにふと「あれ、これって使えるんじゃ?」とひらめいたんです。自転車などもそうですが、ハンドルについているレバーを握っただけで車体にブレーキがかかりますよね。だったら、ワイヤーソーにも同じことができるんじゃないかなと。
まあでも、今年はコロナ禍でゴールデンウィークに暇を持て余していたので、はじめはその時に「ちょっと自分でつくってみようかな」くらいの気持ちだったんです。だから、構想ができた時点では内田に「つくって」とは言っていなくて。「こういうの出来たら面白くない?」と連絡してみたら、多分やり出すだろうなとは思っていましたけどね(笑)。
内田:たしかに、連絡を受けて面白いなと思い、勝手にやり始めちゃった感じですね(笑)。図面も引かずに、まず想像したものをちょっとつくってみて、河野に写真を送ったんです。
―今回の場合はどれくらいの工数だったのでしょう?
河野:試作品ができるまでは、直接会わずにリモートで3週間くらいでしたね。自分は普段、千葉や東京の事業所にいて、内田は茅ヶ崎の本社工場にいるので、試作品ができた後は精度を上げるためにLINEで動画や写真を送り合って「そこまで出来たならここにカバーもつけようよ」など注文をいれながら内田に改良してもらいました。
内田:最初のプロトタイプなんか、ブレーキ部分の緩衝材に自分の長靴を切り取って使ったりしていました。ゴム製の丁度いいものがそれだったので(笑)。
―すごいです。ワイヤーソーの歴史を変えるかもしれないイノベーションが、そんなに短期間で出来上がっていったなんて……。
河野:我々、同い年なんですよ。しかも自分はバイクが趣味で、内田は元バイク屋。だからお互いの共通認識のもとスムーズなやり取りができたんじゃないかな。
内田:前職ではハーレーダビッドソンの愛好家から依頼を受けて、特殊パーツをつけるような仕事をしていたんです。だから「バイクでいうと〜」で話が通じるんですよ。
―お二人は普段から頻繁にものづくりの話をする仲なんですか?
河野:うーん、どうだろう。部署は違うけれど、社内に「研究開発部会」というものがあって、企画側と製作側として組むことは何度かありましたね。
内田:それに、もともと自分のいる部署は各事業所から「こういうのつくれないかな」と依頼を受けて機械を製作するセクションなので、頼まれてつくることには慣れてますしね。そのときと何ら変わらない気持ちで「追従式プーリーユニット」もとりあえずつくってみたんです。
―業務時間外にも仕事に役立ちそうなもののことを考えて、実際に形として会社に貢献しているなんて、二人のものづくり愛を感じます。
河野:それはちょっと認めたくはないですね(笑)。それよりも、「もっとこうしたら効率良くなるんじゃないかな」って気持ちがあったから、大して特別なことではないですよ。
本音を言えば、社内の若手に「現場で工夫をする面白さ」を伝えたかった
―二人のお話を聞いていると、今回は「ふとした思いつきが何だか大ごとになってしまったな」といった印象を受けるのですが…実際はどうですか?
河野:そうですね…実は今回この「追従式プーリーユニット」をつくったのには、社内に向けた想いもあったので。
―どういうことですか?
河野:「工夫をする面白さ」を若手にもっと知ってほしかったんです。今は現場の人がだんだん工夫をしなくなってきている気がするんですよね。「こんなもんだよな」と割り切るのも必要かもしれないけど、もっとよくするために「こんなのできないかな」と面白みを感じている社員は少なくなってきているような。
内田:機械の性能が進化していることも要因でしょうね。刃物も劇的に切れるようになっているし、機械もパワフルになっているので、機械に頼りすぎているところがあるんじゃないかな。一方で昔の機械はもっと出来が悪かったり、よく切れなかったりもしたからこそ、それを何とかしようと現場で考えていたと思うんですよ。
河野:従来のワイヤーソーイング作業では、地上でコンクリートの切断をする際に大量の粉塵が出るので、水をかける作業が必要なんです。自分が若手で現場に出ていた頃に「なんとか人手を減らせないかな」とホースに穴を空けて配置してみたことがありましたよ。結局無駄骨で終わりましたけどね(笑)。
―機械が進化している分、マニュアルどおりに作業しなければいけないとう固定観念もあるのでしょうか。
内田:どうでしょうね。まぁ工夫しなくても、機械に任せれば多少強引になんとかなってしまうのは事実です。でも、今の機械だって工夫して使えばもっともっと効果が出るんですよ。「追従式プーリーユニット」はまさにそういう存在で、ワイヤーソーにこれを装着するだけで、作業全体に大きなメリットがあるわけだし。
河野:うん。これをきっかけに、社内で「工夫すれば現場がもっとよくなるんだ!」という空気ができればいいなと思っています。これから「追従式プーリーユニット」を各営業所に持っていったときに、例えば「これを使ってこういうことも出来た」という例が集まってくるような、そういう方向に作用してくれたら本望ですね。
―若手の人から見れば、河野さんや内田さんのような中堅の社員さんがそれを体現していると「こんなことできるんだ!」と励みになりますよね。
河野:やっぱり若手の方が頭も柔らかいし、その気になれば新しいアイデアも生まれやすいと思うんですよね。経験値の差で多少の間違いや失敗もあるかもしれないけど、「実はこんなやり方もできました」という声を聞きたいんです。
内田:この「追従式プーリーユニット」を現場に持っていったときの反応は楽しみですよね。個人的には、もともと世にないものをゼロからつくり出すのって面白いし、それで人をあっと言わせたい気持ちはあります。そういうのが好きだから勝手に試作もしちゃったしね。
河野:たしかに現場で長年やっているベテランがどんなリアクションを取るのかも楽しみだよね。そして純粋に、自分が現場で仕事をしているときから「あったら便利だな」と思っていたものだから、早く使いたい。同業者に「先につくられて悔しい」と言われたと最初に話したけど、自分の場合はそういう「一番目になりたい」欲求よりも、「自分たちで使いたいからつくる」という気持ちが勝っています。
イノベーションの背景にある「好奇心」と「願い」
一般的に、弊社のような施工業を担う企業が新たな機械を生み出す場合には、クライアント企業様からの要望が前提にあることがほとんどです。
そのため、今回のように社内の、しかも有志でアイデアが生まれ、業界全体に影響力のあるイノベーションが起きるのは、ごく稀なケースといえます。
普段から会社としても部署横断型の「研究開発部会」を発足したり、河野の所属する計画課ではアイデアを図面化する業務もあったりする社風なので、これらが「追従式プーリーユニット」誕生の一端を担っているようにも見えるかもしれません。
とはいえ、趣味のバイクから生まれたアイデアを共有し、実際に形にまで落とし込んだ二人のアクションが、何よりの価値です。
「工夫次第で現場はもっとよくできる」
中堅社員による若手へのそんなメッセージが、未来を切り開いたのだと思っています。